マジシャンズデッド NEXT ブレイジング

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第5話:後編

「ロキ、何があったの?」
クラリスが問いかけると、ロキは鷹を飛ばしながら言った。
「E.I.X.が村に向かっている可能性が高い」
声が震えている。クラリスとリプルは驚きのあまり声も出なかった。
「鷹に上空からの監視を続けさせていたが、さっき戻ってきたんだ。村へ向かう通りに三人組の男が歩いていたらしい。一人は赤色が目立つ消防士、一人はスーツの上から機械をつけていて、もう一人は金髪に金属製のバトルスーツ。観光という出で立ちじゃないだろう。先生の話から考えても、E.I.X.とみて警戒した方がいい。鷹を学園へ飛ばした。伝書をつけたから先生たちも対応するはずだが、ことは急がなければ。クラリスは西側へ、リプルは東を、村のみんなに警戒するよう伝えてくれ。俺は北側へ向かう。安全を確認したら、南側の石造前で落ち合おう」
三人は手分けして村中に警戒するよう伝えて回った。その連絡は隣近所にもそれぞれ拡散され、次々と店が閉まっていく。散歩していた人々も屋内へ身を隠した。村はそれほど広大ではない。この勢いなら間もなく警戒態勢が整う。三人ともそれぞれに恐怖を感じてはいたが、村を守りたいという思いが体を動かしていた。
「こっちは大丈夫」
リプルが息を切らしながら戻ってきた。ロキも駆け足でやってくる。クラリスも合流した。
「南側も静かになっているな。村のみんなが伝えてくれたのかもしれない。大丈夫だとは思うが、念のため向かおう」
ロキがそう言った直後、少し離れた通りで大きな音がした。何かが割れるような音だ。すると、そのあたりの建物の屋根越しに竜巻が上がっているのが見えた。
「あれは、自然現象じゃないな…まさか…E.I.X.のサイキッカーか…」
「サイキッカー!?超能力を使うって言われてるやつらのこと?」
そのことはテレビや人づてで知っていた。リプルは緊張した顔でロキに問いかける。ロキの顔もひきつっている。
「俺はあそこへ向かう。二人は南側の確認に向かってくれ」
ロキが走り出そうとすると、リプルがその腕をつかんだ。
「あたしも行く」
一瞬躊躇したが、ロキは「わかった」と言った。
「クラリス、南側を頼む」
クラリスは唇をかみしめて頷いた。
「任せて。確認が済んだら、私もすぐそっちに向かう」

女は棒を振り上げたが、ロックの竜巻の方が早かった。手にしていた棒は吹き飛ばされ、女は竜巻から逃れようと踵を返した。すると、建物から数人の男たちが飛び出してきた。皆一様に棒を握っている。
「悪の軍団到来か」
ロックは竜巻を男たちに向けた。すると、男たちも棒を振るい、その先から様々に光をほとばしらせた。路面電車が浮き上がり、三人めがけて飛んでくる。大きな氷の塊が行く手を阻む。ロックは思わず竜巻を止め、回避した。ドスが車両を受け止めようと手を広げる。だがそのとき、閃光――白い光が三人の前で広がった。一瞬目を閉じると、男たちは女をともなって駆け出していくところだった。
「逃がすか!」
ロックが再び手を突き出した。放たれたのは複数のカマイタチ。彼らの足を潰すつもりだ。うめき声があがり、足を負傷した彼らは体を引きずって逃げようとする。そこへドスが大量の水を発砲して追い打ちをかけた。男たちはその場に倒れこむ。だが、一人の男が女を背負って先を走っていた。負傷を免れたらしい。すぐに角を曲がり、姿が見えなくなってしまった。
「まずい、シヴァン追ってくれ!」
ドスは倒れこんだ男たちを捕縛しながら叫んだ。シヴァンは走り出した。

ロキとリプルは怒りに燃えた。目の前では、何人もの村の男たちが縛られていた。足には痛々しい傷があり、血が流れている。
「貴様ら…」
ロキはステッキを取り出し、男二人に向かって突きつけた。鷹が目撃した三人の内の二人に間違いない。リプルもピックを取り出す。
「また出てきたな」
ドスは捕縛した男たちの前に立ち、ロックとともに再び戦闘態勢をとった。
「ヒーローのショータイムだ」

シヴァンが男に追いついたとき、既に女の姿はなかった。二手に分かれたらしい。やむなくシヴァンは男に向けて手をかざした。先ほど見た白い光が、一〇年前のことを思い出させる。シヴァンは男を殺すつもりだ。シヴァンの中では確信と憎悪が育っていた。自分から両親を奪ったのは、奴らだ。マジシャンなどこの世から消し去ってやる。
男は逃げきれないとわかったのか、シヴァンに向き直り近くに停めてあったタクシーを宙へ飛ばした。シヴァン目がけて棒を振るう。シヴァンはそれより早く、蒼い炎を噴射した。炎が男へ襲い掛かる。男は身を翻したが、熱波で吹き飛ばされ、背を強く地面に打ち付けた。シヴァンは落ち行くタクシーを超能力で受け止めた。そのとき、背後で足音がした。息を飲む声。立ち止まる音。そして視線。また出てきたな。シヴァンはゆっくりと振り返った。

南側を確認し終えたクラリスは、竜巻が上がった方へ向かって急いでいた。二人は無事だろうか。早く合流しなければ。しかしそのとき、近くでゴオッというが聞こえた。クラリスはすぐにわかった。誰かが炎を使ったのだ。その後、金属のきしむ音が静かな村に響いた。クラリスは音の方へ走った。そこで息を飲んだ。目の前にスーツ姿の男が立っていた。ロキの鷹が見つけた男たちの一人だろう。男の背中に「E.I.X.」の文字があった。その男はタクシーを傍らに浮かべている。魔法とは違うことはすぐにわかった。つまり、サイキッカーだ。なぜここにいるのか。リプルは、ロキは…クラリスは混乱しながら、男の向いている先を見ると、いつも朝に見かけるおじさんが倒れていた。息はしている。おじさんを逃がさなければ。クラリスは立ち向かう勇気を奮い起こす。
「おまえたちは、生まれたときから持っているんだろう」
クラリスが一歩踏み出そうとした矢先、男は背を向けたまま静かにそう言った。男の指先は、宙に浮いたタクシーを弄ぶように回している。男の言葉、そして全身から漂う殺気の矛先が自分に向けられたことをクラリスはすぐに理解した。
男はさらに続ける。
「俺は平和のためにこの力を与えられた。これは与えられた使命なんだ」
クラリスはこの男が何を言っているのかわからなかった。マジシャンを殺すことが使命、それを平和のためと言う。その声の響きは、今まで聞いたこともないような冷たさを帯びている。この男に飲まれる、そう思ったクラリスは思わず男に問いかけた。
「どうしてわたしたちを狙うの? 私たちがなにをしたって言うの?」
尋ねたところで話が通じないことはわかっていた。それでもこの疑問をぶつけなければ気がおさまらない。マジシャンを殺すことが正義であるかのように言い放つこの男、どんな理由をもっているというのか。だが男は疑問には答えずに言葉を続けた。
「その力を持って生まれてきた意味を、おまえは考えたことはないのか?」
生まれてきた意味。その言葉にクラリスは猛烈な違和感を覚えた。命を奪おうとする相手が、生まれてきた意味を問うことへの違和感。クラリスは怒りが全身を突き抜けるのを感じた。
「さぁ、覚悟はいいか?魔女狩りの時間だ!」
振り返った男の目は赤く、そこに憎悪といえる感情が燃え上がっているのが見て取れた。同じ人間のものとは思えないほど冷酷で、突き刺されるような鋭さがある。クラリスは決意した。この男は危険すぎる。私が止めなければ。
男はタクシーを地面に叩き落とした。車体は爆発し、黒煙がもうもうと立ちのぼる。すると男はクラリスの正面に向き直り、右手を開いた。真っ青な炎が手の平で燃える。同じように炎を使う相手。これも何かの因果なのだろうか。クラリスは自然と力がみなぎってくる気がした。生まれてきた意味があるとするなら、それは今だ。全てをかけて、この男を止める。メガネを外し、クラリスは叫んだ。
「サイキッカー、あなたを赦さない、絶対に!」

(5話了)